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とうじゅうろうのこい

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《藤十郎の恋・恩讐の彼方に(とうじゅうろうのこい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 頁

青空文庫

第一顔の作り方一つ知らねえ』とかそれはそれはひどい悪口ばかり云っていました。が、私は型に適っているかどうかは、知らなかったが、染之助の三浦之介は、如何にも傷ついた若い勇士が、可愛い妻と、君への義理との板ばさみになっている、苦しい胸の中を、マザマザと舞台に現しているようで、遠い昔の勇士が私の兄か何かのように懐しく思われたのでした。それ以来、私は毎日のように守田座へ行きたくなったのです。それで浅草へお参りに行くと云っては、何も知らない頑是のない綾ちゃん達のお母さんを、連れて守田座へ行ったものです。それも一日通しては見ていられないから、八つ刻から――そう今の二時頃ですが、染之助の出る一幕二幕かを見に行ったのです。終には子供を召使いに預けて、自分一人で毎日のように出かけて行くようになりました。そうなって来ると、今までは何とも思わなかった自分の美しいと云う評判が、嬉しく思われて来たのです。何だか容貌自慢のようですが」と、祖母は、一寸言葉を澱ませました。私はそう云う祖母の顔を見ながら、二十四五の女盛りの祖母を想像してみました。すると、私の眼の前の老女の姿は、忽ちに消えてしまって、清長の美人画から抜け出して来たような、水もたるるような妖艶な、町女房の姿が頭の中に歴々と浮びました。