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とうじゅうろうのこい

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《藤十郎の恋・恩讐の彼方に(とうじゅうろうのこい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 頁

青空文庫

当り前の旧劇の役者が、怒る時は目を剥いたり、泣く時は大声で喚めいたり、笑う時には小屋を揺がせるような、高声を出す代りに、この役者は泣く時も笑う時も怒る時も質素で、心から泣いたり怒ったり笑うたりする有様が、普通の人が泣いたり笑うたりするのと少しも違わないんですよ。其処が、私の胸にピッタリ響いて来たのです。其処がその頃の見物には、少しも受けなかったところだったのですが」

「今じゃ、そう云う演り方を、写実主義と云うのです。そう云う役者を見出したお祖母さんは、さすがにお目が高かったですね」と、私は心から感心して云った。「貴君のように冷かしてくれては、困るが、何しろ、この役者が見物に受けなければ受けないほど、私はこの役者に同情するようになったのです。この役者の芸を見てやるのは、私一人だと云う気になってね。何でも、この役者を初めて見たのは、鎌倉三代記の三浦之介をしていた時だったが、私の傍に居る見物は、皆口々に悪口を云っていたのですよ。『上方役者はてんで型を知らねえ。あすこで、時姫の肩へ手をやるって法はねえ』とか『音羽屋(その頃は三代目菊五郎だったが)の三浦之介とはお月様と泥鼈だ。