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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁

青空文庫

」

「いや、お前だけでいい。男はあるいていく。」と、四郎兵衛は言った。

金沢までの相談が決まって、足弱のお杉だけが、話の種に乗ることになった。男ふたりは附添って歩いた。牛を追ってゆくのは五十前後の正直そうな男であった。初めて牛に乗ったお杉は、案外に乗り心地のよいのを喜んでいた。

「落されるような事はあるまいね。」と、お杉は牛の背に横乗りをしていながら言った。

「馬から落ちたという事はあるが、牛から落ちたという話は聞かねえ。」と、男は笑った。「牛はおとなしいから、背中で踊ったって大丈夫ですよ。」

この頃は日は長い。鎌倉山の若葉をながめながら、牛の背にゆられて行くのは、いかにも初夏の旅らしい気分であった。小一里も行き過ぎてからお杉は四郎兵衛に声をかけた。

「お前さん、わたしと代って乗って御覧よ。ほんとうにいい心持だよ。」

「じゃあ、少し代らせてもらいましょうか。」

おもしろ半分が手伝って、四郎兵衛は母と入れかわって牛の背にまたがった。やがて朝夷の切通しに近いという頃に、むこうから同じく牛を牽いた男が来るのに出逢った。

「おお、お前は金沢か。」と、彼はこちらの男に大きい声で呼びかけた。