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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《蜘蛛の夢(くものゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 頁

青空文庫

しかし甚吉は亀屋のお園のことや、又それに就いて、このごろかの伊兵衛に悪感情を抱いている事などは、すべて正直に申立てたが、伊兵衛を殺害した事件については、一切なんにも知らないと言い張っているので、その吟味は容易に落着しなかった。彼は入牢のままで裁判の日を待っているのであった。その係りの吟味方は秋山嘉平次である。

その秋山の耳に、今夜怪しい声が聞えたのである。――旦那の御吟味は違っております。――それを誰が訴えたか。この暗い雨の夜に、しかも往来で誰がそれを訴えたのか。

訴えた者は、伊兵衛でござります。と自分で名乗った。殺された伊兵衛の魂が迷って来て、ほんとうの下手人をさがし出して、自分のかたきを討ってくれと訴えたのであろうか。それならば単に吟味が違っていると言わないで、本当の下手人は誰であるという事をなぜ明らさまに訴えないのか。秋山は机にむかって暫く考えていたが、やがて俄かに笑い出した。

「畜生。今どきそんな古手を食うものか。」

甚吉の家は物持ちである。その独り息子が人殺しの罪に問われるのを恐れて、かれの家族が何者をか買収して、伊兵衛の幽霊をこしらえたのであろう。