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じんるいのせいぞんきょうそう

進化と人生(上)

丘 浅次郎

線上閱讀丘 浅次郎《進化と人生(上)(じんるいのせいぞんきょうそう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 82,343 字 · 164 頁

青空文庫

特におもしろいのは亜酸化窒素と称するガスで、これを吸うと、如何なる人もたちまち陽気に浮かれだして、きわめてご機嫌がよくなるゆえ、一名これを「笑いガス」とも呼ぶ。もし釈迦の呼吸した雪山の空気の中にこのガスの若干量が混じていたならば、仏教もよほど異なったものができたかもしれず、もしショペンハウエルの部屋の空気の中に少しくこのガスをまじえておいたならば、彼の哲学も全く根柢から違うたものとなったかもしれぬ。つまるところ、人間の大脳は、酸素二分と窒素八分との混じた普通の空気を呼吸し、従来食いなれた普通の食物を消化しながら、生存競争をしてゆくのに役に立つだけにできているものゆえ、これと異なった状態におけば、自然その働きに変調を生ずる次第である。その他、腹がへればいかなる食物も美味に感じ、久しく独身でいた若者には大概の醜婦も美人に見えるなど、身体上の関係から気分に変化を生ずることもあり、また病気によってはあるいはわがままとなり、あるいは憂欝となって、その日その日の思想にいちじるしい影響をおよぼすことなどはつねに人の知るとおりであるが、これらを見ても大脳の働きは、種々の事情によって絶えず動かされていることが明らかに知れる。