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ぜにがたへいじとりものひかえ

鬼の面 ――銭形平次傑作選3

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《鬼の面 ――銭形平次傑作選3(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 28,312 字 · 57 頁

青空文庫

青葉時の、この上もなく爽やかな朝でした。江戸の街々も、初夏らしい活気に漲って、急ぎ足の三人の衣袂に風が薫じます。

牡丹屋敷の裏、神楽坂の賑やかさを避けて、素知らぬ顔に世を送っている長崎屋も、朝からの騒ぎに煮えくり返っております。

家はしもたや風ですが、裏には小さい土蔵が一と棟、いかにも裕福そうで、店から格子を開けて入ると、調度にも木にも、何んとなく贅沢が匂います。

「あ、銭形の親分」

土地の御用聞や、町役人たちは、ホッと救われたような気持になるのでしょう、平次を迎えて、何んとなく色めき立ちました。

主人の七郎兵衛というのは、町人には相違ありませんが、四十五六のあまり丈夫そうではない男で、色の青黒い、毛の多い、高い鼻と細い眼が特色で、何んとなく利には聡い人柄に見えます。

「飛んだことだったね」

「いやもう、ひどいやり口で、私も胆をつぶしました、どうぞ此方へ、――家内の部屋へ御案内いたしましょう」

案内してくれたのは、店の次の六畳で、そこから仏間へ居間へとつづき、お勝手を隔てて、主人の部屋ははるかに遠くのようです。

「変なことを訊くようだが、――内儀さんは、ここへ一人で寝んで居なさるのか」