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ぜにがたへいじとりものひかえ

鬼の面 ――銭形平次傑作選3

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《鬼の面 ――銭形平次傑作選3(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 28,312 字 · 57 頁

青空文庫

五

。

「それじゃ、私は御免蒙ります」

隣の丹波屋浅吉は、二人の話の間何やらモジモジしておりましたが、掛り合いになるのを逃げるように、コソコソと自分の家へ戻って行きます。

「親分、あの男を放って置いて構いませんか。人相の好くねえ老爺ですが」

「放って置け、此家の主人が仏壇の前に坐っているのを、隣の窓から撃てば壁へ穴があく筈だ」

「なるほどね」

「それより俺は、花見船を嫌って、釣に行ったという義弟の伯次がよっぽど怪しいと思うよ。そっと他の船で引返す手もあるじゃないか」

「へエ、そんな事もありそうですね」

義弟の伯次が、兄を羨ましがって居たことは確かですから、そっと違った小舟で引返して、窓の下に漕ぎ寄せて鉄砲で兄を撃てないこともないわけです。

「尤も、川の中は花見船でいっぱいだから、その中を掻きわけて漕ぎ寄せ、自分の家へ鉄砲を撃ち込めるかどうか、こいつは六つかしい芸当だが――」

平次は、自分の築き上げた疑いを、自分から、又突き崩して居ります。

五

この中へ、花見船は、急を聴いて帰って来ました。乗組んでいたのは、佐渡屋平左衛門の女房お栄、娘のお春、下女のお吉、鳶頭に植木屋の親方、御近所の衆などで、居なければならぬ筈の妾のお房と、手代の駒三郎は姿を見せません。