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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

「お米さん」

「エ……」

「誰か探しているンですか」

「なぜ」

「イヤに後先を見廻しているじゃありませんか」

「そうかい」

「そうかいッて、自分のしていることを」

「淋しいからだよ……妙に広くってさ、イヤなものだね、船旅に立つ夜というものは」

弦之丞様、弦之丞様。

どうしたろうか姿が見えない?

――そう思う闇はお米には淋しいはず。

争闘と愛慾。ひそむ者と追う者。

次々に奇しき影絵は巡り廻ってくる。

お米と宅助がそこを去ったかと思うと、空井戸の縁に手をかけて、中からヒラリと躍りだした者があった。

たッた今、向うの小屋から、うどん屋の灯を目的に走って、原士の群れにつけられたあの編笠の侍。

「違う! ……」と、ぽッつり一語。

こうつぶやいて、お米の後ろ姿に小首をかしげた。

「年ごろもよく似ていたが……」

腕ぐみをして、二、三歩、前へ伸びようとすると、捨石の蔭から這い寄って行ったひとつの影が、

「うぬッ!」

と組みついてたすきにしぼる。

ダダダッと四つの足が乱れつよれつ――草の根を踏みにじって、

「で、出合えッ。組ンだ!」

叫ぶと一緒に側面から、

「おっッ」

といってまたひとり、駆けよりざま太刀を突いてきた――無論、絞りつけた編笠の脇腹へ。