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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

そうして、片手に、笠のつばをおさえて、蔀の蔭へ走ろうとすると、その時だ!

一条の帆綱が、ピュッと――輪を解いて弦之丞の足もとへ飛んだ。

「あっ!」

船の動揺に気をとられていたので、かわすまもなく一方の足は、クルクルと巻きつかれて何者かに手繰られた。

お綱の体は、かれの手を離れてうしろへよろける。弦之丞は倒れながら、脇差を払って、足首にからんだ綱を抜き打ちに切ってはねた。

「ちぇッ」

と、向うの闇で声がする。

弦之丞とお綱は、船床へかがみついたまま、そこへ眼を向けたが、誰の影とも判らない。向うの者も、腹這いになっている様子だ。

「ううむ、まだ船の中に、阿波の武士が残っておった。お綱……わしの側を離れるな」

かれは白い光を背なかへ廻しながら、膝で歩くように、縄の飛んできたほうへいざりだした。

と――先の影も這うように動きだした。そして、グルリと向う側の舷へ廻ってゆく。

人数はいないな、ことによると船頭の中で、拾い首の功名をしようとする奴かもしれぬ。――弦之丞はそう思った。そして、機を計って跳びかかってゆくと、案の定、抜きあわせてもこず、バタバタと艫のほうへ逃げだした。