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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

男の手を握りしめて、お綱の美わしい眸が燃え迫っていった。なんという純情な眼だろう、強い魅惑だろう、若い、ことに多感な、弦之丞の血をおののかさずにはいない力だ。

かれの手は、あやうく、何ものも忘れて、お綱のしなやかな体を抱こうとした。一瞬の煩悩が、くらくらとするばかり、黒い炎をあげてかれの情血をかき乱した。

「わかってはいます。――だが」

「だが? ……なんでござんす」お綱の手は汗に粘って、もがれても、離そうとはしなかった。弦之丞は悩ましい肉感に怖れた。彼の武士的な理性も、強い髪の香りと、弱い女の哀訴に、息づまりそうだった。

「――わかってはいるが、私はお嫌いなのでございましょう……弦之丞様、ほんとのことをいって下さい、どうか、ほんとのことを」

女は真剣である。必死である。男は恋を生活の一部とするが、女はそれが全生命であるという――恋を観る人の言葉のとおりに。

だが? ……といい濁した弦之丞の理性も、こう必死に迫ってきたお綱の前には、しどろになって、懊悩の息をついた。

「ほんとのことを! 弦之丞様」

「…………」

「ほんとのことを、聞かせて下さい。お嫌ならば、お嫌と」