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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁
床の中央には、大魚の腹中にある約拿を図案化したコプト織の敷物が敷かれ、その部分の床は、色大理石と櫨の木片を交互に組んだ車輪模様の切嵌。そこを挾んで、両辺の床から壁にかけ胡桃と樫の切組みになっていて、その所々に象眼を鏤められ、渋い中世風の色沢が放たれていた。そして、高い天井からは、木質も判らぬほどに時代の汚斑が黒く滲み出ていて、その辺から鬼気とでも云いたい陰惨な空気が、静かに澱み下ってくるのだった。扉口は今入ったのが一つしかなく、左手には、横庭に開いた二段鎧窓が二つ、右手の壁には、降矢木家の紋章を中央に刻み込んである大きな壁炉が、数十個の石材で畳み上げられてあった。正面には、黒い天鵞絨の帷幕が鉛のように重く垂れ、なお扉から煖炉に寄った方の壁側には、三尺ほどの台上に、裸体の傴僂と有名な立法者(埃及彫像)の跏像とが背中合せをしていて、窓際寄りの一劃は高い衝立で仕切られ、その内側に、長椅子と二、三脚の椅子卓子が置かれてあった。隅の方へ行って人群から遠ざかると、古くさい黴の匂いがプーンと鼻孔を衝いてくる。煖炉棚の上には埃が五分ほども積っていて、帷幕に触れると、咽っぽい微粉が天鵞絨の織目から飛び出してきて、それが銀色に輝き、飛沫のように降り下ってくるのだった。