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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁

青空文庫

すなわち、最初は本館の方から歩んで来て、一番正面の一つを踏み、それから、次にその向う側を、そして三度目には右側のを、最後には、左側の一つを踏んで終っている。しかし、その複雑きわまる行動の意味が、いったい那辺にあるのか、さすがに法水でさえ、皆目その時は見当がつかなかった。

それから、本館に戻ると、一昨日訊問室に当てた例の開けずの間、すなわちダンネベルグ夫人が死体となっていた室で、まず最初の喚問者として伸子を喚ぶことになった。そして、彼女が来るまでの間に、どこからとなく法水の神経に、後にはそれと頷かせた、異様な予感が触れてきたと云うのは、数十年以来この室に君臨していて、幾度か鎖され開かれ、また、何度か流血の惨事を目撃してきた――あの寝台の方に惹かれていったのだった。彼は帷幕の外から顔を差し入れただけで、思わずハッとして立ち竦んでしまった。前回には些かも覚えなかったところの、不思議な衝動に襲われたからだ。死体が一つなくなっただけで、帷幕で区切られた一劃には、異様な生気が発動している。あるいは、死体がなくなって構図が変ったので、純粋の角と角、線と線との交錯を眺めるために起った、心理上の影響であるかもしれない。