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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《かんかん虫は唄う(かんかんむしはうたう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 頁

青空文庫

雛妓

やがて、彼の影も、日向が消えるように、いつのまにかそこにいなかった。

雛妓

本牧の三の渓に、遠くからでも見える十九世紀型の西洋館と、破風づくりの、和洋折衷の、その頃ではめずらしい、また、豪奢なとも驚かれていた、別荘があった。

西洋館の方の塔みたいな屋根の尖に、赤い風車が乗っているので、トマト畠にいる百姓でも、それが北仲通りの輸出入商、セキタン屋の高瀬の別荘だということを知らないものはない。

秋の晴朗な畠道を、きょうも、幾台となく、馬車や俥が、そこを向けて通った。

「お大尽が通る」

「関内芸妓が通る」

と百姓たちは、幾度も、腰を立てた。

別荘の庭園の前にも、漁師の子だの、碧い眼の赤ン坊を連れた雑用婦だの、ピクニックに出かけた外人の家族づれなどが、俥から下りては、邸内に吸われてゆく華やかな座敷着の女や、雛妓たちを、ものめずらしそうに、見物している。

そのうちに、黒の山高帽をかぶった跛行の紳士が、馬車から下りた。この跛行の紳士がその日の正賓であるとみえて、玄関のまえには、主人の高瀬理平や、夫人お槙や、令嬢の奈都子や、すべてのものが、ものものしく立ちならんで、出迎えた。