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それから

それから

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《それから》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 172,794 字 · 347 頁

青空文庫

「また出て行ったのかい」

「ええ、まあそうです」

代助は笑いながら、両手で寐起の顔を撫でた。そうして風呂場へ顔を洗いに行った。頭を濡らして、縁側まで帰って来て、庭を眺めていると、前よりは気分が大分晴々した。曇った空を燕が二羽飛んでいる様が大いに愉快に見えた。

代助はこの前平岡の訪問を受けてから、心待に後から三千代の来るのを待っていた。けれども、平岡の言葉は遂に事実として現れて来なかった。特別の事情があって、三千代がわざと来ないのか、又は平岡が始めから御世辞を使ったのか、疑問であるが、それがため、代助は心の何処かに空虚を感じていた。然し彼はこの空虚な感じを、一つの経験として日常生活中に見出したまでで、その原因をどうするの、こうするのと云う気はあまりなかった。この経験自身の奥を覗き込むと、それ以上に暗い影がちらついている様に思ったからである。

それで彼は進んで平岡を訪問するのを避けていた。散歩のとき彼の足は多く江戸川の方角に向いた。桜の散る時分には、夕暮の風に吹かれて、四つの橋を此方から向うへ渡り、向うから又此方へ渡り返して、長い堤を縫う様に歩いた。がその桜はとくに散てしまって、今は緑蔭の時節になった。