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しゅんきんしょう
ちくま日本文学014 谷崎潤一郎
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《ちくま日本文学014 谷崎潤一郎(しゅんきんしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 頁
まして縁づいたのが十五の歳であるとすれば、いかに早婚の時代だとしても、恐らく母はそういう社界の汚れに染まる度も少く、まだ純真な娘らしさを失っていなかったであろう。それなればこそ子供を三人も生んだのであろう。そして初々しい少女の花嫁は、夫の家に引き取られて旧家の主婦たるにふさわしいさまざまな躾を受けたであろう。津村はかつて、母が十七八の時に手写したと云う琴唄の稽古本を見たことがあるが、それは半紙を四つ折りにしたものへ横に唄の詞を列ね、行間に琴の譜を朱で丹念に書き入れてある、美しいお家流の筆蹟であった。
そののち津村は東京へ遊学したので、自然家庭と遠ざかることになったが、そのあいだも母の故郷を知りたい心はかえって募る一方であった。有りていに云うと、彼の青春期は母への思慕で過ぐされたと云ってよい。行きずりに遇う町の女、令嬢、芸者、女優、―――などに、淡い好奇心を感じたこともないではないが、いつでも彼の眼に止まる相手は、写真で見る母の俤にどこか共通な感じのある顔の主であった。彼が学校生活を捨てて大阪へ帰ったのも、あながち祖母の意に従ったばかりでなく、彼自身があこがれの土地へ、―――母の故郷に少しでも近い所、そして彼女がその短かい生涯の半分を送った島の内の家へ、―――惹き寄せられたためなのである。