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チェーホフのたんぺんについて

カシタンカ・ねむい 他七篇

神西 清

線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁

青空文庫

一八九七年春のはなしである。

こんな風に一切の絶対主義の敵として躍りだす際の彼の面だましいには、われわれが習慣的に抱いているチェーホフの概念とはひどく懸けはなれた、爽快なまでに不敵なものがある。そこには信念的な実証論者がおり、断乎たる不可知論者がいる。ところでフランス革命のあとでは、「理性」の神像を教会堂へ担ぎこんで祭壇に祀ったという話があるが、同様にして科学にしろ「唯物論」にしろ、祭り上げられたら最後すでに宗教に化けてしまうぐらいのことなら、チェーホフは若い頃からちゃんと心得ていた。

『わびしい話』(一八八九)は、周知のように精神的破産に陥った老医学教授の長い独白だが、その中に出てくる解剖助手はちょっと、『ファウスト』のワグネルを思わせる役どころで、この男の「科学の正確さへの狂言」や「権威に対する奴隷的崇拝」は、老教授の顔をしかめさせるに十分であった。のみならず別の登場人物の口には、――科学の命数はもう尽きた、今ではもう錬金術や形而上学や哲学などと同様、偏見から生まれた「第五元素」に成り下ってしまった……などというなど手きびしい宣告までが托されているのだ。