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チェーホフのたんぺんについて
カシタンカ・ねむい 他七篇
神西 清
線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁
事実チェーホフは屡不愛想に黙りこんだ。なかでもシチューキンという司祭の初対面の感想は甚だ特徴的である。まるで当のチェーホフは留守で、誰かが代って相手をしてくれているような気がしたという。対坐している男の眼つきは冷やかで、言葉はぽつんぽつんと切れ、まるでかさかさだった。こんな男に、永年自分が愛読して来たような「人情味にあふれ、もの悲しい歌声さながらの」美しい物語の書けるはずはない、と司祭は心の中で叫ばざるを得なかった。
チェーホフは大して坊主が好きではなかったろうし、その日は特に機嫌が悪かったのかも知れない。だが要するに五十歩百歩だ。抹香の代りに香水の匂いをぷんぷんさせた社交婦人が三、四人訪ねて来て、主人とこんな問答をはじめる。――この戦争はどうなることでしょう?――やがて平和になるでしょうな。――まあ本当に。でもどちらが勝つでしょう?――強い方でしょうな。――どちらが強いと思召して?――うまい物を食べて教育のある方でしょうな。――でも、どちらがお好きですの、ギリシャ人? それともトルコ人?――好きといえば、僕はマーマレードが好きですね。あなたは?――私も大好き。