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チェーホフのたんぺんについて

カシタンカ・ねむい 他七篇

神西 清

線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁

青空文庫

及びその逆。

シェストフがあの『虚無よりの創造』を書いた頃は、まだチェーホフの書簡集が公刊されていなかったという事情は、一応考慮されていいかも知れない。だが仮にシェストフが彼の手紙の写しを全部机上に備えていたにしても、やはりチェーホフにごつんごつんと頭をぶつけさせずには措かなかったに決っている。けだし悲劇は何らかの運動を前提としなければならず、そしてシェストフは悲劇以外のものには興味がないからである。だがもしチェーホフというものが、本質的に一切の前提を受けつけぬような存在だった場合はどうなるのか?

シェストフに比べれば、ミハイローフスキイはさすがに社会学者だけあって、精力の濫費について甚だ慎重だったと言っていい。レーニンによって、ブルジョア・デモクラシー的見解の最も俊秀な表明者と呼ばれたこのナロードニキーの代表的イデオローグは、文芸時評の畠でも相手のうちに「悪」を嗅ぎつけることにかけて殆ど天才的な鼻の持主だった。まだ『アンナ・カレーニナ』にも筆を着けない頃のトルストイをつかまえて、破壊的なアナーキズムの傾向を予言したのも彼なら、ドストイェーフスキイの墓の土がまだ乾かぬうちに、彼の苦悩愛のうちに病的なサディズムを嗅ぎつけたのも彼である。