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チェーホフのたんぺんについて

カシタンカ・ねむい 他七篇

神西 清

線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁

青空文庫

ものが一切ない。魂の中はがらん洞だ。政治もない、革命も信じない、神もない、幽霊も怖くはない? 死ぬことも目がつぶれることも怖くない。そのくせ誰かのように泥水で酔っ払うわけにも行かない。ガルシンのように階段の上から身投げもできないし、さりとて六〇年代の連中みたいに他人のボロ布で自分の空虚を蔽って澄ましていられるほどお目出度くもない(以上一八九二年十一月、スヴォーリン宛の手紙より)。また曰く、生活の目的は生活それ自体だなどと言うのは、飴チョコであって人生観ではない(同十月、同人宛)。また曰く、連帯性なんていうことは取引所や政治や宗教事業についてなら分るが、青年文士の連帯性なんか出来ない相談だし、要りもしない(一八八八年五月、シチェグローフ宛)、等々。

否定また否定、切断また切断である。その果てに現像されるのは、清潔なまでに孤独な一人の男の姿でなければならない。実際チェーホフはさすがに頗る巧みな一筆がきで、そうした自画像を描いている――野原の遠景、白樺が一本。絵の下に題して曰く、孤独(『手帖』)。

さらにこの孤独者は、なかんずく一切のエクスタシスおよび狂気から切断されているゆえに、必然的に永遠の覚醒状態にありつづける運命をもつ。