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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《三十二刻(さんじゅうにこく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 頁
五手に別れて部署に就いた人数は、ようやく迫る黄昏の光のなかで、落着いた。そして明るくさえある声で呼交わしながら、元気に動き廻っていた。
――うん。
図書は心の内で微笑した。
――これなら存分にひとあてできるぞ。
けれどその時、鉄砲組の速水左右助が、血相を変えて意外な報告に駈けつけてきた。
「申上げます。一大事でござります」
「落着け、どうしたのだ」
「火薬が水浸しになっております」
「なに、火薬がどうしたと」
図書はぎょっと色を変えた。
「何者がいたしましたか、倉前に揃えました分も、倉の中に有る分も、すっかり水浸しにしてしまいました。一発分も使える薬がございません」
「六郎右衛、見てまいれ」
家扶がすぐに左右助とともに走っていった。
戻ってきた六郎右衛門から、それが事実だと聞くと、図書は沈痛な呻き声をあげた……攻防共になくてはならぬ鉄砲だ。その火薬がいまは一発分も残らず水浸しだとすれば、戦わずしてまず最も重要な武器を喪ったことになる。善き決戦の機を掴むべき、その機会の選択力もまた、図書の手から奪取られたのだ。
「外から入込んだ者はございません。曲者はお屋敷内にいて、先ほどのお盃のあいだにやったものと思われまする」