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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《三十二刻(さんじゅうにこく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 頁
八
活物のように、闇を跳って飛込む幾十本とない火は、そのまま庭へ散乱して篝のように、四辺を焦がした。
――なにをしようとするか。
図書は思わず床几を立って広縁へ出た。
敵はその機会を覘っていたのだ。図書が広縁へ出るとたんに、向うの民家の屋上に伏せてあった五挺の鉄砲が一斉に火を吹いた。
「あっ!」
と悲鳴をあげながら、宇女が図書の前へ両手をひろげて立塞がった。しかしその刹那に、図書は大きく、
「危い!」
と叫びながら、宇女の体を縁下へと蹴落した。そして自分は、右手で腰骨を押えながら、よろよろとそこへ膝をついていた……五弾の内一弾が、彼の腰骨を草摺はずれに射抜いたのであった。
六郎右衛門の叫びで、三人の家士がはせつけた。宇女は突落されたとき足を挫いたが、皆と共に図書を抱上げて居間へ運んだ……図書は片手を振廻しながら、
「いかん、書院に置け。奥へ入れてはならん」
と懸命に叫んだ。そして叫びながら、彼は凄じい地響きと共に築地塀が崩壊し、敵味方の挙げる決戦の鬨声を、昏迷する耳の奥で朧ろげに聞いた。
八
図書が意識を取戻した時、側にいたのは宇女であった。
明るい光が部屋いっぱいに漲っていた。