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さんまいつづき
三枚続
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《三枚続(さんまいつづき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 63,572 字 · 124 頁
人木石にあらず己も男だ、と何も下司にタンカを切ったわけではない。歌人が自分で深く慮り、すべて婦人の弟子に対する節は、いつもその紅、白粉、簪、細い手、雪なす頸、帯、八口を溢れる紅、褄、帯揚の工合などに、うっかりとも目の留まらぬよう、仰向いて眼を塞ぐのが、因習の久しき、終に性質となったのである。もっとも有数の秀才で、およそ年紀二十ばかりの時から弟子を取立てた。十年一日のごとく、敬すべき尊むべき感謝すべき心懸けであるから、音楽に長けたる鴨川夫人が、かつて弟子の中の一人であったことをもって、毫も先生の品行を怪んではならぬ。
世には夫人が、おもて向き結婚してから八月目というのに、女児を流産したといって、云々する者もあるけれども、経典に言わずや、鶴は相見てすなわち孕む、それ歌人はこの濁世に処して、あたかも鳶烏の中における鶴のごときものであるから、結婚の以前、既に疾く児を宿さぬという数はあるまい、従って八月で流産しないとも限らぬのである。夫人は名を才子という、細川氏、父君は以前南方に知事たりしもの、当時さる会社の副頭取を勤めておらるる。この名望家の令嬢で、この先生の令閨で、その上音楽の名手と謂えば風采のほども推量られる、次の室の葭戸の彼方に薔薇の薫ほのかにして、時めく気勢はそれであろう。