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えいがをつくるはなし

中谷宇吉郎集 第三巻

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《中谷宇吉郎集 第三巻(えいがをつくるはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,667 字 · 95 頁

青空文庫

低温室だより

一

一

御名前の記憶ちがいだったら大変失礼であるが、楚人冠先生か誰かの随筆の中にこんな話があった。

先生が、大分昔の話であるが、どこかの田舎で講演をされたことがあった。聴衆は村の人たちで、知識階級などというものとは凡そ縁の遠い、ただの農家の主人とか娘さんとかいう人たちであった。

その講演がすんで辞去されようとしたら、世話役の人が、とんでもなく大きい籠に卵を一杯入れて、御礼にくれたそうである。昔のことで、卵などふんだんにあった時代の話なので、先生は少し持て余し気味ながら、折角の厚意と思って貰って帰られたそうである。

ところが、家へ帰ってその卵を喰べようとしたら、一つ一つにそれぞれ名前が書いてあることに気がつかれた。即ちその時の聴衆が、御礼心にそれぞれいくつかの卵を自分の家から持ちよったものであった。

毎日その卵を一つ一つ召し上った時の先生の嬉しそうな顔がその文章のどこかにほの見えていた。

この話と関連して思い出したのは、御礼状のことである。この頃、特に夏休みになると、色々な人が、ひっきりなしに私どもの低温研究室を見学に見えるので、いささか閉口している。