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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
線上閱讀原 民喜《原民喜戦後全小説(はるかなたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 60,577 字 · 124 頁
それなのに、お前と一緒に暮していたあの旅先の借家の姿は、あれは僕の内側にあって、僕はまだどうかすると、あそこでお前と一緒に暮しているのではないかしらとおもうのだ。僕はあの立てきった部屋で何かぼんやり不安と慰藉につつまれていた。机の前の窓の外の地面には氷の張っていることが感じられたが、僕のいる部屋は暖かに火がいこっていたし、廊下を隔てて隣の部屋にはお前が睡っていた。殆ど毎晩僕は同じ姿勢で同じ灰の色を眺め、同じことを考えていたらしい。お前が睡っている時間が僕の起きている時間だったので、僕は僕ひとりの時間が始まると、夜の沈黙のなかに魅せられながら、やがて朝がやって来るまでを、凝とあの部屋に坐っていた。夜あけ前の微妙な時刻には、ふと、どうしたわけか、死んだ人の生還ってくるような幻覚がした。
毎晩、僕たちは夕食後の一ときをあの部屋で過したので、あの部屋には僕たちの会話や、会話では満たされない無限の気分が一杯立罩めて行ったようだ。お前が寝室に引退り僕ひとりになると、僕はよくあの部屋の柱や壁をじっと眺めた。その柱には懐中時計の型をしたゴム消が吊りさげてあった。