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はるかなたび

原民喜戦後全小説

原 民喜

線上閱讀原 民喜《原民喜戦後全小説(はるかなたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 60,577 字 · 124 頁

青空文庫

眼

耳

やっぱり、くっきりと白い三日月は昨日のように残っているのであった。

眼

よく働く眼であった。ちらっとものを窃視ることも出来たし、静かにものを見詰めることもできる眼であった。どんな細かなものも見落すまいと褐色の眸は輝き、一眼でものの姿を把えようと勝気な睫は瞬いた。手先仕事のちょっとした骨なら傍から見ていて、すぐに覚えとってしまう眼であった。眼分量のよくきく眼であった。マッチの大箱に軸が何本這入っているか、眼で測って、後で数えてみると殆ど差がなかった。

熱が出ると、その眼は潤んで、大きく見開かれた。頬の火照りをじっと怺えていて、何かを一心に祈っている眼であった。

人の気持に先廻りしようとする眼であった。その眼からはとげとげしいもの、やさしいもの、うれしげなものがいつも活溌に飛び出た。

私はその眼が末期の光を湛えて、大きく虚ろに見開かれたのを忘れはしないが、あの時の相は私の心に正確には映らなかった。むしろ、夜の闇の中で考えていると、まざまざと甦って来るまなざしの方がかなしいのである。

耳

もともと、よく訓練された耳ではなかった。人の云うことを聞き違えることもなかったかわりに、人の口真似を巧みにこなすことは出来なかった。