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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
線上閱讀原 民喜《原民喜戦後全小説(はるかなたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 60,577 字 · 124 頁
二人は同じ空想に浸り、そして、神秘な、頭の蕊まで熱くなるような、冒険の一ときが過ぎて行くのであった。……写真に残っている板看板には、たとえば「帝国製麻株式会社取次店」とか「日本石油商会代理店」とかいう文字が彫込んであったが、それは夕方店を鎖す前に丁稚が軒から取はずし、朝毎にまた軒に取つけるのであった。その板看板も夜は土間の荷物の脇に放ってあったので、静三たちにとっては滑り台となったり、橋梁となるのであった。
静三は夕方店が退ける前の雑然とした空気が好きであった。大人たちはそわそわと忙しそうに立働いていたが、静三は店先に佇んでぼんやり往来を眺めている。すると、脚榻を抱えた点火夫が軒毎に灯を入れてゆく。その、すばしこい微妙な動作は、静三が気がついた時には、もう次の家の軒に灯を入れているのだったが、簷の四角形の門灯に灯が点くともう夜の領分であった。大人たちが静三に城を譲り渡す時であった。夕飯が済むと、静三は家の玄関から暗い露路を通って、そこの店へ裏口から乗込んで行くのだが、糸杉の植わった暗い石畳が何か神秘な感覚につつまれていて、その纔かな距離を歩く間にも、夜の劇の期待に心は弾むようだった。