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はるかなたび

原民喜戦後全小説

原 民喜

線上閱讀原 民喜《原民喜戦後全小説(はるかなたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 60,577 字 · 124 頁

青空文庫

たとえば、すぐ門の脇にある物置小屋には、釦づけをする機械が放ってあったが、前には一度その機械で拵えられた釦が赤い羅紗に貼られ梅津商店と金文字の入った額に収まり、練兵場で開かれた共進会へ出品されたこともあった。それから、向に幻灯のように青々と茂っている樹木と黒いトタン屋根の縫工場があるが、遠くから見るとひっそりしているがそこの入口に近づくと、高い棟の下に数台のミシンの回転する響と女工たちの入乱れた姿があるのを静三はよく知っていた。彼はその工場が建った晩の棟あげの壮烈な光景や、ずっと前に海岸の砂地で行われた女工たちの運動会もおぼろ気に思い出せた。それから、工場の裏の空地には飛んだり跳ねたり叫びながら追かけ廻した叢があった。その叢から向が土手になっていて、川が見えた。いつも、あの川のところへ行くと、ゆったりした、静かな、水のどよめきが、彼等の騒ぎ廻ったあとの気持を遥かに、遠くへ運んでくれるのだった。

……だが、あの辺があんなに素晴しくおもえたのは、そっくり父の影響だったのかもしれなかった。静三の父は前からこの工場の土つづきの空地にいくつも借家を建てていたし、工場の畑も父が気晴しにやっているのだった。