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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
線上閱讀原 民喜《原民喜戦後全小説(はるかなたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 60,577 字 · 124 頁
父は新しい背広を着て金口のタバコを吸った。もうその頃になると、店員たちの服装もすっかり新しくなっていて、その頃撮られた写真には、叔父や従兄の良一など新しい店員の顔も加わっている。金銭登録器が使用されたのも、その頃だが、これはすぐ壊れてそのまま物置に放ってあった。……そのうちに、あの、川の近くにあった縫工場が店のすぐ隣へ移転して来た。これははじめ静三にはあの工場へ通う道の歓声がその儘ここへやって来たようにおもえた。実際、店は工場と連結されたため急に賑やかになった。台八に積まれた服地の山や、大きな籠に一杯詰まった軍帽が、つぎつぎに現れ、夕方の店先では女工たちと店員のとりかわす浮々した声がきこえた。梅津商店という屋号の上に合名会社という肩書が加えられるようになった。静三は会社という名称に何か朧気ながらハイカラなものを感じた。
その翌年の春、この街に物産陳列館が建てられた。その高く聳える円屋根にはイルミネーションが飾られ、それがすぐ前の川の水に映っていた。静三たちは父に連れられて、対岸の料理屋の二階からその賑いを眺めていた。夜桜の川ふちを人がぞろぞろと犇いて通った。