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こじじゅんれい

古寺巡礼

和辻 哲郎

線上閱讀和辻 哲郎《古寺巡礼(こじじゅんれい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 143,765 字 · 285 頁

青空文庫

そうして明らかな仏眼は、黒味を帯びた朱の瞳をもって、あたかも画面全体の中心であるかのように、暗緑の頭髪の下に優しく輝いている。紅の濃淡で柔らかにひだをとられた衣によってゆるやかに包まれている胸の下には、両の掌を半ば開いて前向きにそろえた説法の印が、下ひろがりになった体勢を巧みに緊縮する。その体をめぐってヒラヒラと散り落ちる蓮の花びらは、音なく動揺なく、静かに大気のうちに掛かっている。ここにすべてを抱擁する「静寂」が具体化せられているように見える。

単純な配合でありながら微妙な深味を印象せずにはいないその色彩の感じ、単純な構図でありながら無限の内容を暗示するかのようなその形の感じ、――そこにはなにか永遠なものの相がきらめいている。とにかくそれは清浄な世界である。仏教の精神に特有なあの彼岸生活への(すなわち観念を具象化して永生の信仰を色づけたあの永遠の世界への)憧憬がこの浄土を作り出したのであろう。もしわれわれの心に「阿弥陀浄土」への願望が生きていたら、この画の色と形がわれわれに印象するところは、もっと強く烈しいに相違ない。偉大な芸術はいかなる国のいかなる人の心をも捕うべきはずであるが、しかし小児が名画に対して強い感動を持たなかったからと言ってそれを怪しむ人はない。