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たじゅうとそのいぬ
太十と其犬
長塚 節
線上閱讀長塚 節《太十と其犬(たじゅうとそのいぬ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 頁
太十には西瓜畑が見ることさえ堪えられなかった。彼は物狂おしくなった。彼は鎌をぶつりと番小屋の屋根へ打ち込んだ。薄い屋根を透して鎌の刃先は牙の如く光った。彼は蚊帳へもぐってごろりと横になって絶望的に唸った。文造は止めず鍬を振って居る。其暑い頂点を過ぎて日が稍斜になりかけた頃、俗に三把稲と称する西北の空から怪獣の頭の如き黒雲がむらむらと村の林の極から突き上げて来た。三把稲というのは其方向から雷鳴を聞くと稲三把刈る間に夕立になるといわれて居るのである。雲は太く且つ広く空を掩うて一直線に進んで来る。閃光を放ちながら雷鳴が殷々として遠く聞こえはじめた。東南の空際にも柱の如き雲が相応じて立った。文造は此の気象の激変に伴う現象を怖れた。彼は番小屋へ駆け込んで太十を喚んだ。太十は死んだようになって居る。
「北の方はひでえケイマクだ。おっつあん遁げたらよかねえか」
「うるせえな」
太十は僅にこういった。彼は精神の疲労から迚ても動く気になれなかった。雲は地上に近く掩いかぶさってあたりが薄暮の如く闇くなった。頬白は塒を求めて慌ててさまよった。冷気を含んだ疾風がごうと蜀黍の葉をゆすって来た。