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しんきだんクラブ
奇談クラブ(全)
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《奇談クラブ(全)(しんきだんクラブ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,139 字 · 208 頁
礼子の言葉を信用すれば、一人の女が同時に二ヶ所に、完全に存在したことになります。
「可怪いなア、俺はたしかに、エレベーターの前で君を見たんだ」
「まだあんな事を言ってらっしゃる。サア、ヴェルモットでも差し上げましょう。甘くてお嫌?――今晩は全くどうかなすって入らっしゃるワ」
「僕は間違える筈は無い」
「嫌、もうそんな気味の悪いことを仰しゃっちゃ。私は一人此処に居さえすれば、それで宜いではありませんか。ね」
「…………」
「今晩は、此処へ泊って下さいな。宜いでしょう。私、気味が悪いんですもの、変な事ばかり仰しゃるから」
礼子は帽子と手袋をかなぐり捨てて、意気な訪問着のまま私の身体へ全身的に凭れて来るのでした。
部屋の調度の粗末なのに似ず、身の廻りの素晴らしさ、この半分は私が買ってやったにしても、あとは何うして手に入れたでしょう。全くこの女は「謎の塊」そのものでした。
それにしても、この美しさはどうでしょう。私は暫らく女のなすが儘に任せて、その気違い染みた愛撫を、存分に受け容れました。
此の女の持って居る滴るような媚態や、溶け入るような魅力は人業の意力の抵抗を超越した悪魔の誘惑です。