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しんきだんクラブ

奇談クラブ(全)

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《奇談クラブ(全)(しんきだんクラブ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,139 字 · 208 頁

青空文庫

玄関へ立って名前を言うと、待ち構えたように奥へ通されて、女の童が褥をすすめる、茶や菓子を運ぶ、まるでお大名のような応対振りです。

ほんの暫らく待って、正面の襖を両方から開けさして、静かに立ち現われたのは、噂に聞く梅仙女でしょう。紫の被布、同じ襦衣に、白襟を重ねて、豊かな黒髪は後ろへ結び下げて居りますが、その美しさは全く輝くばかり、江柄三十郎眩暈がするように思いましたが、顔を合せるや否や、不思議に活々した記憶を呼び覚されて、思わず、

「あッ」

と驚きの声をあげてしまいました。

「江柄様、おなつかしゅう御座います」

女は品位も我慢も振り捨てた様子、走り寄って華奢な身体を投げかけるように、三十郎の膝に手を掛けて、下から差し覗くのでした。

紛れもないあの女です。

お夏になり済して、婚礼当夜に契った女、三十郎が忘れようとして忘れることの出来なかった、妖艶無比な毒の花のようなあの女だったのです。

「あっ、お前は、お前は」

と言うばかり、三十郎暫らくは後の言葉が続きません。

膝に置いた華奢な手を取り、消えも入りそうな柔かい肩をさすり乍ら、この妖女の不思議な美しさに見入って、武士のたしなみも、日頃の心掛けも、家に居る筈の可憐な新嫁のお夏も忘れ果ててしまいました。