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ぜにがたへいじとりものひかえ

奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,249 字 · 62 頁

青空文庫

「ところで、お嬢さんには、縁談がたくさんあるということだが、一つも気に入ったのはありませんか」

八五郎は話題を変えました。

「でも、みんな変な話ばかり」

お君は極り悪さよりは、腹立たしさがいっぱいの様子です。

「たとえば、どんな」

「近頃は金三郎さんが、変なことばかり言います、けれども」

それは平松屋源左衛門の弟で、自堕落と、不道徳と、汚辱の中に育った美少年であることは八五郎も知っておりました。

そんなのが、仇同士のようなお君に言い寄るということは、なんか容易ならぬ含みのあるべき筈です。

お君の話のテンポの遅さと、八五郎の逢曳? を享楽する心持に引き摺られて、いつの間にやら四半刻(三十分)ほどの時間は経ちました。

「あ、あれは?」

八五郎の耳には、何やら変な声が聴えたのです。

「ときどき、離屋の窓の外であんな声がするんです」

「容易ならぬ声だが」

「そうね、いつもの脅かしと違ってるかもしれません」

二度目の押し潰されたような声に、お君も少し不安になったらしく、土蔵の庇の下を潜って、大廻りに、裏口の前を通り、母親の住んでいる離屋の入口へ出ました。

「お母さん、お母さん」