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あんごしんにほんふどき
安吾新日本風土記
線上閱讀坂口 安吾《安吾新日本風土記(あんごしんにほんふどき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,916 字 · 46 頁
発端
発端
先月日向を旅行したとき、宮崎市内の鉄道沿線に「クスリは富山の広貫堂」という広告板を見た。富山の薬は販売員が各地の家庭を一々訪問して薬袋を預けて行く特別な商法であるが、南の果の日向にまでその行商の足がのびているのかと思うと、本拠地を訪問したい意欲がうごいたのである。
私もずいぶん富山の薬をのんだものだ。ちょッとした病気になる。壁や柱に富山の薬袋がぶらさがっているとつい飲むようになるのは人情だ。カゼ薬。よく胃痛腹痛をやったから熊の胆と赤玉。通算すれば相当の量をのんでいる。販売員が年に一度やってきて、袋をしらべ、薬をつめかえ、去年の代金を受けとって行くのも目になれた姿だった。そんなわけで富山の薬は私の生活史に浅からぬ因縁もあるものだから、戦争前にふと古本屋の店頭に「富山売薬業史資料集」という三冊つづきの本をみつけて、特別の必要があるわけでもないのに買いもとめたこともあった。もっとも先年税務署に本を持って行かれてしまったので、いまは手もとにない。
行商は商業の最も原始的な形態だ。現今でも押売りという行商が横行しているが、富山の薬は一風変っていて、代金は後廻しだ。