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あずさがわのじょうりゅう
山岳紀行文集 日本アルプス
小島 烏水
線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁
松林へ入ると松は左へ左へと、すくすくと影を土に落して、往来には、太くまたは細い飛白が織られる、年々来るところであるが、ことしはその松林の一区域が、伐り取られて、切株ばかりの原には、芒がぼうぼうと生えている、褐色の蝶が風に吹かれ吹かれて、急にひろくなった原の上を、迷い気味に飛んで行く、林の半ばほどの路で、立場茶屋に休む、渋茶を汲んで出された盆の、菓子皿には、一と塊まりの蠅がたかって、最中が真ッ黒になって動いている、アンペラを著た馬が、尾をバサリと振るたびに、灰神楽をあげたように、黒いのが舞いあがる、この茶屋は車宿をしているが、蚕もやるらしく、桑の葉が座敷一杯に散らかって、店頭には駄菓子、ビール、サイダーなどが並べられてある。
乗鞍岳は、始終よく見えたが、林に入る頃には、前山に近くなっただけ、頭をちょっと出して、直ぐ引っ込んだ、常念山塊には、雲が鮨でも圧すように、平ったく冠さって、その隙間から、仏手柑のような御光が、黄色く焦げるようにさしている、路端に御嶽大権現だの、何々霊神だのという、山の神さまや、行者の名を刻んだ石塔を見るにつけても、もう山国へ来たという感じが、あわただしく頭をそそる。