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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁

青空文庫

大宮口の時は、友人画家茨木猪之吉君と、長男隼太郎を伴った。茨木君は途々腰に挟んだ矢立から毛筆を取り出して、スケッチ画帖に水墨の写生をされた。隼太郎は、近く南アルプスに登る計画があるので、足慣らしに連れたのであった。吉田口の時は、私一人であった。馬上悠々、大裾野を横切ったのは、前の大宮口が徒歩(但し長坂までは自動車を借りた)であったから、変化を欲するために外ならなかった。馬上を住家とした古人の旅を思いながらも、樹下石上に眠らずに、木口新しく、畳障子の備わった室とはいえない屋根の下に、楽々と足を延ばし、椎の葉に盛った飯でなく、御膳つきで食事の出来る贅沢を、山中の気分にそぐわぬと思いながらも、その便利を享楽した。

始めに大宮口を選んだのには、理由があった。大宮口は、富士登山諸道の中で、海岸に近いだけに最も低い。吉田口は大月駅から緩やかな上りで、金鳥居のところが海抜約八百メートル。御殿場町も高原の端にあって、四百五十メートルの高さになっている。須山は更に登って五百八十メートル。しかるに大宮口は、品川湾から東京の上町へでも、散歩するくらいの坂上りで、海抜僅かに百二十五メートルに過ぎない。