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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁

青空文庫

芭蕪翁のわが詠み捨てた句は、一つとして辞世ならざるはなしの徹底芸術精神は、学んで到り得るにあらねども、一順礼の最後の足跡までに、印をつけておいた。

ここに限らず、富士の室は風俗史的に見て、欧米諸国の山小舎に、ちょっと類例のないものがある。約めていえば、永い年代の間、人間味のしみ込みの深さである。室ごとに請わるるままに、金剛杖に焼印を押すが、不二の象形の下に、合目や岳の名を書いたり、不二形の左右に雲をあしらい、御来光と大書して、下に海抜三千二百何メートルと註してあったり、富士とうずまく雲を下に寄せて、その上に万年雪の詠句を題したものなど、通俗的の意匠が施されている。飲食も、コーヒー、シトロン、紅茶などの近代的芳香の飲料と、阿倍川もち、力もち、葛湯、麦粉などの中世的粗野なる甘味が供給される。殊に私の目をひいたのは、登山者参詣人が、室の板壁、屋根裏や、柱に張り残してゆく名札で(それは室に取って迷惑なものかも知れないが)、木版刷、石版刷の千社札に類した人名や登山会の名を記したもので、寸法こそ必ずしも、天狗孔平以来、江戸末期に行われた何丁がけの法式に則らずとも、また平俗であっても、相応の意匠を凝らして作成したもので、アメリカの登山小舎に見る鉛筆の落書や、活字印刷の事務的名刺のはりつけなどよりも、登山そのものを幾分