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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《山彦乙女(やまびこおとめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 頁

青空文庫

「さあ肩からおりて、おりるのよう、だめ、もうたくさん」声はもっと近くなった。

そして、まもなく、下のほうから一人の娘が、霧を押し分けるようにして、こちらへ登って来た。

みどうの、花世であった。

彼女の姿も、あのときとは、すっかり変っていた。たけながの髪をひっつめにあげ、ひとつかねに束ねて、うしろへ垂れている。千草を染めだした藍摺りの、元禄袖の着物に、葛布らしい、白の奴袴をつけて、素足に半之助のとよく似た、革草履をはいていた。うっかり見ると、少年のような姿である。

「お早う、ごきげんいかが」

声も少年のように、歯切れよく叫びながら、花世は大股に、こっちへ近よって来た。

躯つきも、ぐっとひき緊っているし、ゆたかに色の白い頬を、若い健康な血があざやかに染めている。大きな、なにかの宝玉のような眸子と、柔らかくしめった、彫刻的な口元とを、さらにひきたてるかのような、上唇の脇の黒子が、かなりつよく眼を惹いた。ぜんたいが、いかにもすがすがしく、伸びざかりの、匂やかな生命があふれているようにみえる。

彼女のまわりには、名も知れない小鳥どもが、群れ集まっていた。かれらは花世の頭上を飛びまわり、肩にとまり、また地面におりて、彼女といっしょに、歩いて来るのもあった。