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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《山彦乙女(やまびこおとめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 頁

青空文庫

そこは池の水際であったが、こちらから見ると、その地面が、まるで水に浮いてでもいるかのように、ぐらぐらと揺れた。千之助は足を取られ、転倒しそうになったが、巧みに立ちなおって、その揺れる地面を、跳び越え、跳び越え、すばやく池畔をまわって、林のほうへ走っていった。

そのときである。

「ああ、あれを見ろ、あの林の木を」

と捕方の一人が叫んだ。

檜と椹の林が揺れだした。ざあーときみの悪い音をたてて、梢と梢が触れあい、まるで烈風にでも煽られるように、幹と幹を打ちあわせ、そうして、端のほうから順に、ゆらゆらと揺れ傾きながら、池の中へと倒れ始めた。

みんな息をのみ、眼をみはって立ち竦んだ。それは恐ろしい、白昼夢のような、出来ごとであった。

僅かに東南の微風があるばかりで、初夏の山は眠っているように静かだった。空は青く澄みあがって、ひる近い日光が、眩しいほど明るく照っていた。

この穏やかな景色のなかで、林の樹々が、つぎつぎに、大きくゆらめき、身ぶるいをしながら、どうどうと倒れてゆく。水を打つ音。枝の折れる響き、高くふきあがる飛沫。そして、倒れたものから順に、ずるずると、池の中へひき込まれてゆくのである。