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ひがんすぎまで
彼岸過迄
線上閱讀夏目 漱石《彼岸過迄(ひがんすぎまで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 195,333 字 · 385 頁
女は自然のままにそれをすらりと垂れたなり、まるで他の注意を予期しないでいたのである。彼は素直に調子の揃った五本の指と、しなやかな革で堅く括られた手頸と、手頸の袖口の間から微かに現われる肉の色を夜の光で認めた。風の少ない晩であったが、動かないで長く一所に立ち尽すものに、寒さは辛く当った。女は心持ち顋を襟巻の中に埋めて、俯目勝にじっとしていた。敬太郎は自分の存在をわざと眼中に置かないようなこの眼遣の底に、かえって自分が気にかかっているらしい反証を得たと信じた。彼が先刻から蚤取眼で、黒の中折帽を被った紳士を探している間、この女は彼と同じ鋭どい注意を集めて、観察の矢を絶えずこっちに射がけていたのではなかろうか。彼はある男を探偵しつつ、またある女に探偵されつつ、一時間余をここに過ごしたのではなかろうか。けれどもどこの何物とも知れない男の、何をするか分らない行動を、何のために探るのだか、彼には何らの考がなかったごとく、どこの何物とも知れない女から何を仕出かすか分らない人として何のために自分が覘われるのだか、そこへ行くとやはりまるで要領を得なかった。敬太郎はこっちで少し歩き出して見せたら向うの様子がもっと鮮明に分るだろうという気になって、そろりそろりと派出所の後を西の方へ動いて行った。