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ひがんすぎまで
彼岸過迄
線上閱讀夏目 漱石《彼岸過迄(ひがんすぎまで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 195,333 字 · 385 頁
十一
千代子は笑いながら否々をして見せた。僕はさらに姿勢を正しくして、受話器を彼女の手から奪おうとした。彼女はけっしてそれを離さなかった。取ろうとする取らせまいとする争が二人の間に起った時、彼女は手早く電話を切った。そうして大きな声をあげて笑い出した。――
十一
こういう光景がもし今より一年前に起ったならと僕はその後何遍もくり返しくり返し思った。そう思うたびに、もう遅過ぎる、時機はすでに去ったと運命から宣告されるような気がした。今からでもこういう光景を二度三度と重ねる機会は捉まえられるではないかと、同じ運命が暗に僕を唆のかす日もあった。なるほど二人の情愛を互いに反射させ合うためにのみ眼の光を使う手段を憚からなかったなら、千代子と僕とはその日を基点として出立しても、今頃は人間の利害で割く事のできない愛に陥っていたかも知れない。ただ僕はそれと反対の方針を取ったのである。
田口夫婦の意向や僕の母の希望は、他人の入智慧同様に意味の少ないものとして、単に彼女と僕を裸にした生れつきだけを比較すると、僕らはとてもいっしょになる見込のないものと僕は平生から信じていた。これはなぜと聞かれても満足の行くように答弁ができないかも知れない。