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ひがんすぎまで
彼岸過迄
線上閱讀夏目 漱石《彼岸過迄(ひがんすぎまで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 195,333 字 · 385 頁
穏やかな母の顔が不安と失望で曇る時の気の毒さも予想していた。僕は今この予期と全く反対の結果を眼の前に見た。彼らは二人とも常に変らない親しげな叔母姪であった。彼らの各自は各自に特有な温か味と清々しさを、いつもの通り互いの上に、また僕の上に、心持よく加えた。
その晩は散歩に出る時間を倹約して、女二人と共に二階に上って涼みながら話をした。僕は母の命ずるまま軒端に七草を描いた岐阜提灯をかけて、その中に細い蝋燭を点けた。熱いから電灯を消そうと発議した千代子は、遠慮なく畳の上を暗くした。風のない月が高く上った。柱に凭れていた母が鎌倉を思い出すと云った。電車の音のする所で月を看るのは何だかおかしい気がすると、この間から海辺に馴染んだ千代子が評した。僕は先刻の籐椅子の上に腰をおろして団扇を使っていた。作が下から二度ばかり上って来た。一度は煙草盆の火を入れ更えて、僕の足の下に置いて行った。二返目には近所から取り寄せた氷菓子を盆に載せて持って来た。僕はそのたびごと階級制度の厳重な封建の代に生れたように、卑しい召使の位置を生涯の分と心得ているこの作と、どんな人の前へ出ても貴女としてふるまって通るべき気位を具えた千代子とを比較しない訳に行かなかった。