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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《忘れ残りの記(わすれのこりのき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 頁

青空文庫

近所隣りへのお土産にと、その折詰ばかりが一ぱい入れてあっただけだから、スリも後ではそんな沢山な鰻の白焼キを始末に困ったろうよと、母はよく笑いばなしにした。

蒲焼には毎度お目にかかるが、近ごろ、鰻の白焼キは、お客の方でもあの特有な味を忘れているらしい。どうかして宮川とか熱海の重箱などでこれに出会うと、ぼくは人知れず、遠い以前の新橋駅をすぐ思い出すのである。

二度目に、東京を見たのは、小学三年生の時の春だった。

上野に“全国児童選書展覧会”というのが開催され、ぼくのお清書も入選して展示された事かもしれない。山内先生以下、数名の生徒や父兄附添いで、横浜からわざわざそれを見に行った。

一行十名足らずで、校長先生の引率といっても、頗る行楽気分な家族づれだった。ぼくには母も誰も附いていなかったが、女生徒には父兄が一しょだった。その中に、加藤何子という同級の女生徒がいた。日頃からその子も嫌いでなかったけれど、宮崎千代子という子の方が、もっと好きで、もっと綺麗に思われていた。その二人とも同じ旅行の中にいた。だからよほどこの修学(?)旅行はぼくには愉しいものだったに相違ない。