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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《怪しの館 短編(あやしのやかた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 頁
それでご上人様におかれましては、博多の地に滞在しておられましても、福岡ご城下の高橋屋正助という、侠商の別荘にひそんだり、斗丈翁という有名な俳人の、五反麻という地の庵室へかくれたりして、所在をくらましておられました。
六
さてこの頃のことでございますが、ある日私は五反麻を出、福岡ご城下へ用達しに行きました。そうして夕暮れになりました頃、斗丈様の庵室へ帰ろうと思って、その方へ足を向けまして、ご城下はずれまで参りました。歩きつかれておりましたので、道端の石へ腰を下ろして、しばらくぼんやりしておりましたっけ。この辺は人家もたいへんまばらで、その家々も小さなもので、全体がみすぼらしく眺められましたが、私の眼の前にある家ばかりが、一軒だけ立派で宏壮でした。巡らされてある土塀も厳めしく、その内側に立っている幾棟かの建物も、やはり厳めしく立派でした。でもそのうちの一棟が、とりわけ高く他の棟から抽んで、しかもその屋根に千木を立て、社めいた造りに出来ているのが、不思議に思われてなりませんでした。それにその屋敷全体が、どうやら無住の空家らしく、雨戸も窓も閉ざされていることも、何か心にかかりました。