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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《怪しの館 短編(あやしのやかた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 頁
この日の最後の夕陽の光が、猩々緋のように華やかに、千木の立ててある建物の雨戸にあたって、火の燃えているように見えているのへ、わたしは無心に眼をやりながら、つかれた膝の辺を撫でていました。
「おや?」
とわたしは思わず云いましたっけ。
その雨戸が細目に開いて、そこから手が一本あらわれて、何かを庭へ捨てたようでしたが、すぐにまた引っ込んで、雨戸もすぐにとざされたからです。
(あの屋敷、空家ではなかったのか)この意外さもありましたが、しかしそれよりも雨戸の間から出た、白い細い上品な手――肘の上までも袖がまくれて、二ノ腕の一部をさえあらわした手が、見覚えあるように思われたことが、わたしに「おや」と云わせたのです。
(ご上人様のお手に相違ないんだがなア)
女にもなければ男にもない、何んともいえず綺麗で上品で、勿体ないほど優美のご上人様のお手を、たとえ遠くから瞥見したにしろ、わたしとして見違えることがあるものですか。
(あれはたしかにご上人様のお手だ。……でもしかしご上人様があんなところにおられる筈はない)
この疑惑に苦しんで、わたしはしばらく途方にくれていました。