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ハムレット

怪奇探偵小説傑作選3 久生十蘭集 ハムレット

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《怪奇探偵小説傑作選3 久生十蘭集 ハムレット(ハムレット)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 72,034 字 · 142 頁

青空文庫

揉み合いに鳧がつくと、片手で舷側を掴みながら、素早く後退りに後尾のほうへ上ってゆき、抜目なく拳銃を膝にひきつけた。ナターシャは安全燈の光を五人のほうへ差向け、これも油断なく監視をつづけるのだった。

三十分。永劫とも思われる長いながい三十分が経ったが、依然として、舟は落下をやめない。恐るべき無限の落下。暗黒の洞窟の中で、耳も聾するばかりのすさまじい水音が囂々と轟きわたり、一同の聴覚を麻痺させる。

つづいて、異様な現象がはじまった。

舟の落下につれて、洞内の温度が急激に嵩まっていく。一時間の終りごろになると、誰も彼も汗みずくになって、犬のように舌を出してハアハアと喘ぎはじめた。少なくとも四十二、三度を超える暑さだった。

モローゾフ教授は、顎からポタポタと汗のしずくを垂らしながら、辛辣な諧謔を弄した。

「ねえ、博士。われわれは、今どろどろの岩漿帯の中へ落ち込もうとしているのですな。私が地獄の道連れなら、あなたも、さぞ、ご満足でしょう」

博士が、生真面目にはねかえした。

「岩漿帯の中へ流れ込む水流などあるはずはないから、そのうちに落下は終るでしょう」

教授は肩をピクンとさせると、やりきれないといった顔でおし黙ってしまった。