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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁

青空文庫

療養所だから窓は明け放たれ、寒さは外の残雪を絡んで室内をつんざいていた。しかも、浅路さんはうすべりの下は板敷の上で、冷えることを承知で寝ていたのである。

「センセイ、僕こんなになっちゃいましたよ、ほら、これを見てください。」

立原はふとんの中で大事にしまってある自分の手を、いくらか重そうにして、出してみせた。それは命のたすからない人の手であって、たすからないことを対手に知らせるための手であり、本人はそれでいて未だ充分にたすかる信仰を持っている手でもあった。私はそれを眺め、手が生きている間は書けるよ、こいつが動かなくなると書けなくなるがと言った。立原は嬉しそうに笑い、生きている大切な右の手をまたもとの胸の上にしまった。私は人間の手というものがどれほどの働きと、生きる証拠を重い病人に自信を持たせているかを、知ったのだ。

中野の町の珈※店で、私は津村と対い合せになり、固いパンを齧り合った。バタのかわりにジャムがついた酸っぱいパンの粉を払って、私はテエブルの上にあご付きをして、腰を伸して言った。

「お見舞いをして宜かった。今日来なければ出渋ってとうとう会わずじまいになるかも知れないところだった。