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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁

青空文庫

たとえば新婚の折、友人に妻を見せながら対手の友人の顔を見極める心づかいなどは、女の人には判らない慮りがあるものだ。

ある日津村信夫は私の家の上手の小さい丘から、嘗つて立原道造がつれて来て見せた愛人と同じ道を、信夫は一人の少女を伴うてもう門の前からにこにこして、どう思われるかという心づかいをわすれて了い、ただ、事の新鮮無類ないきさつの愉快さで、わざと大きい声で、や、今日は暑くてバスが混んで了ってと言った。背後であんしんした微笑の顔が、ちょっと足を停めてシトヤカに頭を下げて見せた。眼が大きくいっぱいに開かれ、その眼にも微笑があふれていた。

「昌子さんです。」

と、彼は彼女を紹介した。性質にあるオトナシサが少しの衒いもなく、からだの全部に正直に現われて嘘のない人であった。いつかの白檀の小扇を見たときのしゃれた、思えばきびしくもある想像の人とは、まるで異っていた、私はこれでよかった、津村信夫の選び方もまちがいなく、彼の好みを融かしている少女だと思った。立原道造もえらぶことに於て、くるいはなかったが、津村もまた自分の好きをうまく射ちあてているような気がした。私は画家というものがその妻をえらぶことでは、たいがい間違いないように見ていたが、詩をかく詩人という者にも、えらぶことでは女のものを見落すことがなかった。