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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁
それなら挨拶に上ろうじゃないかと、萩原の返事も聞かないで、先刻、詩碑の前を素通りにしたお詫びかたがた、夫人を訪ねようと果物籠を町で用意して出掛けた。
暮鳥夫人はよくふとって健康そうであり、私は挨拶の言葉をくり返している間も、萩原朔太郎は黙って立ん坊をし、笑いさえすれば礼儀にかなうように始終にこにこしていた。面倒な事や日常の礼節の行事を避けている萩原は、お愛想らしいことも言わずに外に出て了った。併し旧友の夫人を旅行中に訪ねたということが、萩原を機嫌好くし、感慨もまた一入清純のように見受けた。
萩原と私が水戸の停車場の歩廊に立っていると、一人の少女が前に来て親しそうにお時儀をし、わたくしは山村の娘でございますが、今日お立ちのことをうかがって、ちょっとでも、ご挨拶がしたくて参りました。これはほんのおしるしですがと言い、水戸の名産を二折、一つは萩原様にというふうに言われ、私はこの伶子さんという暮鳥令嬢に、ペコペコ頭を下げた。恰度、彼女のうしろにもう一人少女が立っていて、これが妹ですといわれ、私は二人の旧友のお嬢さんを見て、暮鳥死して珠ありという瞬間の感慨を、永い間忘られなかった。