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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁
うちつゞく生籬、
ひともとそゝりたつ銀杏、
その頂きを去つて再びきたらぬ日光を見る。
――ふたゝび返らぬ幸福を見る。
大正十年から十一年にかけて、私は花札を引くことに夢中になっていた。不思議なこの遊びは毎晩続き、昼間も引いていた。その連中に百田宗治夫妻も交じり、しをりという前夫人を連れ、百田は夕方、巣鴨から田端に通うて来た。百田の花は手固い打手であり、私も手固く打った。私の妻、村井清貞、平木二六、萩原朔太郎、たまには芥川龍之介、下島勲も見え、遠くから佐藤惣之助というふうに、客があれば花を引いた。濫作を重ねた私の頭はただれた疲れがあったが、疲れは花札の繚乱たるひらめきを見ると、すぐ恢復するかに思われたが、事実はその反対で一層ふかく疲労したけれど、これを停めるわけに行かなかった。百田が表門から這入って来る気はいを知ると、来たかい、待っていたと言い直ぐ花札を持ち出した。前夫人のしをりさんは美しい人で、その人が話し出すと大阪弁が花札と一緒に絡れて、なまめかしく花札の怨み言や歎きや弾みがはいって来た。百田自身も小説を書こうという気構えのあった時分であり、詩でも、ゆきづまっていたらしく、空いた時間を花でも打って潰していたかったらしい。